高血圧症とは
心臓は収縮と拡張を繰り返し、全身に血液を送り出しています。送り出された血液が通る道である血管には弾力があって、血液が送られてくると拡張し、それが元に戻ろうとする力でさらに末梢部へと血液を届ける役割をしています。
その際、血管の壁には常に心臓から送られてくる血液によって圧力がかかっています。これを血圧と言います。心臓が収縮して強く血液が押し出された時に血圧は上がり(収縮期血圧=上)、心臓が拡張すると血圧は下がります(拡張期血圧=下)。 血圧は、一日の中でもかなり変動しますが、何らかの理由で一定以上に高くなってしまった状態が続くと高血圧という状態になり、この状態が病的に続いているのが高血圧症です。
高血圧の目安としては、病院などの診察室で何度か測った時に収縮期血圧(上)が140mmHg以上、拡張期血圧(下)が90mmHg以上の場合、また家庭で安静時に測った血圧が135mmHg~85mmHg以上の状態です。
高血圧が起こる理由としては、心臓が血液を送り出す力が強すぎる、血管の柔軟性が様々な理由から損なわれている、その他にはホルモンの異常、睡眠時無呼吸症候群などが高血圧に関連していると考えられています。
高血圧の状態が続くと、常に血管はプレッシャーを受けている状態になり、血管壁がいわば疲労した状態になっていきます。この状態が持続すると動脈硬化へと進展し血管が脆くなり大きな部分では脳血管障害、心不全などを起こしやすくなり、さらに腎臓などの様々な臓器、末梢の組織に影響を及ぼします。
日本では高血圧の有病率は高く、実に全人口の3人に1人が高血圧状態にあると言われています。
女性の高血圧は若干減少傾向にありますが男性は今なお若干の増加傾向にあると言われており、今後もこの高い有病率が続くのではないかと懸念されています。
高血圧症の発症原因
高血圧の発症するメカニズムは心臓と血管、ホルモンなどが複雑に絡み合っていますが、なぜそのような状態が起こるのかについての多くは不明です。 高血圧には大きく2つに分けて考えられています。
1つ目は発症の原因が分からず生活習慣(環境要因)や遺伝的要素によって起こると考えられる本態性高血圧で、2つ目は甲状腺や腎臓などに疾患があり、それが原因となって起こる二次性高血圧です。
本態性の高血圧を起こす環境要因としては、過剰な塩分摂取、肥満、運動不足、ミネラル(特にナトリウムをコントロールするカリウムなど)不足、喫煙、アルコールの大量摂取、自律神経のバランス、精神的ストレスなどが関連していると考えられています。
高血圧症による
症状・合併症
高血圧の状態が続いていると常に血管は圧力を受けて、そのうち日に当たったゴムホースのように弾力が無くなり動脈硬化を起こします。しかし、高血圧はよほど高い状態にならない限り、特に自覚症状が現れにくいため、静かに動脈硬化が進行するのも生活習慣病の大きな特徴の一つです。
動脈硬化は全身どこにでも起こりますが、その場所によって様々な合併症を起こします。
脳
脳に血液を送り込む動脈が硬化すると、脳内の血管が破裂する脳出血や詰まってしまう脳梗塞などを起こします。
心臓
心臓に酸素や栄養を送っている冠動脈の動脈硬化によって引き起こされる、狭心症や心筋梗塞などの原因となります。
また心臓自体の働き過ぎによって心臓肥大が起こると心不全の原因となります。
その他の臓器
腎臓は毛細血管が数多く集まって、血液を濾過し、老廃物を尿として排出して、綺麗になった血液を身体全体に送り戻す働きをしています。ここで動脈硬化が起こればこの働きに障害が起き、腎硬化症から腎不全を起こすこともあります。
また、基幹ルートである大動脈での動脈瘤により大動脈剥離が起こりやすくなり、様々な臓器に障害が起こることになります。
自覚症状がほとんど現れない高血圧ですが、健康診断などで血圧について指摘されたら、出来るだけ早く受診して早めに治療を始めてください。
また、家庭でも簡易なものでも大丈夫ですので、血圧測定ができる装置(血圧計やスマートウォッチなど)を用意し、普段から定期的に血圧を測る癖をつけることも大切です。
高血圧症の治療法
高血圧の治療は、食生活や睡眠、ストレス管理といった生活習慣の改善による非薬物療法と血圧を下げる薬による薬物療法の両方で進めます。
非薬物療法
状態によっても異なりますが、生活習慣の改善などによって、全く薬を服用しなくても血圧をコントロール出来る可能性もあります。
非薬物療法のポイントは1.生活習慣の改善、2.運動習慣の改善、3.食生活の改善で、それぞれを単独に行うのではなく、バランスを取りながら全体を進めていきます。
生活習慣
ストレス
血圧は心理的要素も大きく関連しています。例えば診察室血圧は緊張があるため家庭でリラックスして測る時より高いと言われています。
緊張、ストレスなどが続けば血圧は高い状態が続いてしまいます。上手く緊張をほぐし、ストレスを解消する手段を自分なりに工夫することが大切です。
睡眠
睡眠習慣の乱れは、疲労回復が上手く出来なくなり、知らぬうちにストレスを溜める原因ともなります。
自分に合った睡眠をしっかり確保できるよう、寝る前のリラックス法や寝室環境の改善、寝具の工夫などもしてみましょう。
入浴
入浴は血管を広げて血圧を下げる効果があります。またリラックス効果も高いものがあります。 ただし、心臓疾患を合併している場合などは注意が必要で、高温のお湯に浸かる、長湯などは逆効果になります。
少し低めの温度のお湯で、全身で入るのは短めにして、寒い時期はその後、足だけしばらく浸かるなど、自分に合った入浴法を工夫してみましょう。
運動習慣
激しい運動は全く必要ありません。続けられる程度の有酸素運動で全身を動かすことが大切です。特にウォーキングはこれといった道具も不要で、気軽にしっかりと全身運動を行えるため有効です。
またしっかりと呼吸をしながらゆっくり行うスクワットも有効です。こうした運動を、毎日できる範囲で続けて行くことが何よりの運動療法になります。詳しくは糖尿病の項目を参照してください。
食事習慣
食事習慣は大切です。偏った食生活、不規則な食生活を送っていると、高血圧の原因となるばかりではなく、肥満やその他の生活習慣病の原因ともなります。高血圧の治療でも食生活を整えることは大切です。
食塩摂取の制限
日本人は食塩の摂りすぎと言われます。たしかに世界的統計を見ても食塩摂取の多いアジア諸国の中でも常に上位に入っています。これは米を主食にして、副菜はご飯が食べやすい味の強いものといった食習慣によるものと考えられています。
食塩自体は身体に必須のもので悪者という訳ではありませんが、運動による発汗などが無いにも関わらず、消費出来ないほどの食塩を摂ることが問題なのです。
高血圧治療のガイドラインでは男性が1日に8g、女性は7gと規定されていますが、これは目安であって、その人の生活や体重などによってきちんと医師と話し合って、自分にあった食塩制限を続けていくことが大切です。
カロリー・脂質摂取の制限
必要以上に痩せていることも身体に良くないのですが、肥満は特に高血圧と繋がります。その人に合った標準的な体重を維持するために、適切にカロリーコントロールを行います。
肥満状態の人は、その原因となる脂質の多い食物や調理法を出来るだけ控える必要があります。
脂質の多い食物としては、豚ロース、バラ、牛ロースなど、マヨネーズ、生クリーム、バターなどがそれに当たります。
薬物療法
生活改善や運動療法、食事療法による効果が十分に得られない場合、薬物療法を検討します。
降圧薬によって血圧をコントロールし、血管に与えるプレッシャーを減らし、他の臓器への影響を食い止めることが薬物療法の目的です。 血圧を下げる目的の降圧薬は多くの種類が開発されています。
高血圧症の重症度や、患者様それぞれの状態に合わせて、それらの中から最適な薬剤を選び処方します。 まずは1種類の降圧薬を使用し、それで効果が不十分な場合、2種類、3種類と組み合わせて使用します。
降圧薬は、血圧が下がったからと自己判断で飲むのを止めてしまうと、再び血圧が上がり、以前よりも悪化することもありますので、医師の指示通りにじっくりと治療に取り組むことが大切です。
生活習慣での心がけ
血圧が上昇する要素としては、処理出来ないほどの塩分摂取の他にも様々なものがあります。
中でも大きいのは、喫煙習慣、大量飲酒習慣、肥満、運動不足、ストレスの蓄積などです。
タバコ
ニコチンは血管を収縮させる働きがあります。そのため喫煙習慣は高血圧の悪化要素の中でも大きな位置を占めています。また血圧ばかりではなく、様々な健康被害の原因となります。
アルコール
少量の飲酒であれば、血管は拡張しリラックス効果もありますが、大量にアルコールを摂取していると、肥満や血圧上昇を招くことになります。また肝臓にも大きな負担がかかります。アルコール摂取は適度な量にすることが大切です。