性感染症

性病(性感染症)とは

性感染症は、性行為によって伝染する病気のことで、英語のSexually Transmitted Diseaseの頭文字をとってSTDと呼ばれたり、性病と呼ばれたりすることもあります。
性器同士の接触だけではなく、口と口、口と性器、肛門と性器など、主に粘膜同士の接触や、目に見えないほどの小さな傷からの病原体の侵入などによって伝染していきます。
現代でも多く広まっているものとしては、クラミジア感染症、淋病、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、カンジダ膣炎、トリコモナス膣炎、梅毒、HIV(AIDS)などで、中には近年になって再度増加傾向を見せているものもあります。
性感染症と言うと特殊な病気のように思われがちですが、実は15~19歳の女性の5%弱、20~24歳の女性では6%強がこうした性感染症のどれかに感染しているという報告があります。
一般的な病気だからといって、心配が無いわけではなく、放置することで命に関わってくるものや、不妊、母体から赤ちゃんへの感染などの危険性もあります。また、感染を広げてしまう可能性もありますので、思い当たることがあれば、出来るだけ早めに受診してください。

主な性感染症

クラミジア感染症

現在最も増加傾向の高い性感染症の一つで、クラミジア・トラコマティスという細菌によって感染するものです。
感染すると3日から1週間程度潜伏し、女性の場合は膣から子宮に炎症を起こします。
また、オーラルセックスによってのどに感染すると慢性の咽頭炎や扁桃炎を起こすこともあります。

主な症状

女性の場合、ほとんど自覚症状がないことが多いのですが、進行すると粘り気の強いおりものが出る、おりものの量が増える、不正出血を起こす、右上腹部に痛みを生じるといった症状がお起ることがあります。
口から感染すると、のどの炎症を起こします。また目に細菌が入るとトラコーマという眼病になります。

リスク

クラミジア感染によって炎症が続くと、子宮内膜炎、子宮頸管炎、卵管炎などを起こして不妊、流産などに繋がって行くことがあります。また分娩時に赤ちゃんに感染すると、赤ちゃんがクラミジア肺炎になったり、結膜炎を起こしたりします。

検査と治療

膣や子宮内の粘液などを採集して抗原検査を行う、または血液検査で抗体を確認します。
治療では抗菌薬による薬物療法を行うことになります。

淋病

淋菌による感染症で、性器同士の接触だけではなく、近年では口腔感染が増えてきている傾向があります。
そのため、のどに感染しているケースが多くなっています。潜伏期間は2日から1週間程度です。

主な症状

男性の性器に感染した場合は、激しい尿道炎の症状が出て、感染がはっきり分かることが多いのですが、女性の性器に感染した場合は、ほとんど自覚症状が現れないことが多く、現れたとしても、おりものが黄色っぽくなるか、外陰部が少し腫れて痒みが出る程度です。 のどに感染した場合は、男女共にのどに炎症を起こします。

リスク

ほとんど自覚症状が無いため、気がつかないまま慢性化すると、淋菌性膣炎、子宮内膜炎、卵管炎などを起こし、不妊や子宮外妊娠に繋がることもあります。慢性化した場合は強い下腹部痛を伴うこともあります。
パートナーが感染したり、ちょっとした症状で思い当たることがあったりする場合は、すぐに受診してしっかり治療してください。

検査と治療

膣の粘液などを採集して淋菌の有無を確認することになります。治療は抗生剤の点滴を行うことになります。
通常は1回30分ぐらいの点滴で治療完了となりますが、他の感染症の可能性も考慮して、抗菌薬の内服を併用することもあります。どちらの場合も医師から治療終了を告げられるまで、しっかりと治療を続けてください。
途中で勝手に止めてしまうと、耐性菌を増やしてしまうこともあります。

性器ヘルペス

単純ヘルペスウイルス(HSV)というウイルスによる感染症です。最近では、20代の男女に感染が増加しているという報告があります。
感染すると女性の場合、10日程度の潜伏の後、初めての発症で重い症状が起こることが多く、また、治ってもウイルスは死滅したり体外に排除されたりすることなく潜伏しますので、体力が弱っている時などに再発することがあります。再発した場合の症状はそれほど強くありません。
性交渉によって伝染しますが、それ以外にもタオルの共有などで感染することもあり、また性器以外には口、目の粘膜などにも感染することがあります。

主な症状

発症すると、外陰部や膣、子宮頸部までに水疱ができます。それに伴い、発熱や全身の倦怠感と共に、関連するリンパ節が腫れたり膀胱炎を起こしたりすることもあります。水疱は痛みを伴うことが多く、破れるとさらに痛みます。
水疱が破れると内容物にウイルスが含まれているため、それに触れた手でタオル等を使うとそこから感染することもあります。 再発時は外陰部の軽い痒みや違和感程度です。

検査と治療

慣れた医師であれば、一般的には症状の出ている時に患部を視診することでほとんど判断が可能です。抗原検査や血液検査による抗体検査も可能ですが、症状が出ていない際に検査は精度が下がる傾向があります。
基本は抗ウイルス薬による治療を行います。また、再発しやすいような場合は、抗ウイルス薬を予防服用することもあります。

尖圭コンジローマ

ヒトパピローマウイルス(HPV)による感染症です。HPVは子宮頸がんの原因ウイルスとして知られていますが、それとは別の型のものが尖圭コンジローマを起こします。
潜伏は3週間から8か月と長く、また治療によって一旦症状が治まってもウイルスが残ってしまい、再発することが多いため、一度かかった方はご自身でしっかりと病変に注意して、根気よく治療を続けるようにしてください。

主な症状

女性の場合、外陰部から肛門の周辺に、弾力性のある小さなイボができます。大きくなってトサカ状になったり、集まってカリフラワーのようになったりすることもあります。
それ以外の症状はあまり現れず、あったとしても患部の痒み、ほてりなどで、稀に性交痛が起きる程度です。

検査と治療

慣れた医師であれば、視診だけで診断可能です。症状が出ていない時の検査としては低リスク型のHPV検査を行います。これは綿棒を用いて外陰部や膣の粘液を採集し遺伝子検査を行うものです。
治療としては、イボが小さいうちは専用の軟膏を患部に塗布する療法が可能です。大きくなった場合は電気メスやレーザーによる切除を検討することもあります。

カンジダ膣炎

カンジダという真菌(カビ)による感染症です。カンジダは普通にヒトに常在しているもので、健康な人には感染しませんが、なんらかの事情で免疫力が低下した場合などに感染して発症することがあります。
そのため、高リスクと考えられるのは、糖尿病のある人、抗菌薬を使用している人、妊娠している方などになります。 また、外陰部などを洗い過ぎることで、皮膚を護っている常在菌が減少してしまうと感染しやすくなります。
カンジダ膣炎は性感染症に分類されていますが、女性の場合、ほとんどは性交渉以外の原因で発症しており、性交渉による感染は5%程度と言われています。

主な症状

痒みが起こり、特徴的な、カッテージチーズあるいは酒かすのようなおりものがあります。このおりものは外陰部に付着するとただれることもあります。また、排尿痛や性交痛を感じることもあります。
おりものが治まってきたからといって安心して放置していると、慢性化してしまうことがあるため、注意が必要です。

検査と治療

おりものを採集して培養検査を行います。原因は真菌ですので、抗菌薬ではなく抗真菌薬を使用して治療することになります。慢性化させないよう、症状が無くなってからも医師の許可が出るまでしっかりと治療を続けてください。

トリコモナス膣炎

膣トリコモナス原虫という寄生虫の一種が膣内に寄生することで発症します。この原虫は感染力が強く、性行為だけではなく、トイレの便座やタオル、下着、浴槽などでも感染を起こす可能性があります。
また、膣内に感染すると、内部の免疫力を低下させる性質があり、他の性感染症にも感染している可能性が高いため、早期に治療することが大切です。

主な症状

無症状のことも多いのですが、症状が出る場合、外陰部の痒み、黄色や緑色っぽいおりもの、泡だったおりものなどが出て、臭いが強くなるケースが多くなっています。それに気づいて受診するというパターンが一般的です。

リスク

進行させてしまった場合、外陰炎、尿道炎などを起こします。その場合、動くと痛いといった症状や排尿時の痛みを感じることがあります。
特に男性の場合、無症状のことが多く、治療しないまま、パートナーに繰り返し感染させてしまうことがありますので、トリコモナス膣炎を起こした場合、必ずパートナーと共に検査を受けるようにしましょう。

検査と治療

迅速検査が必要な場合は、おりもの、尿などを採集して顕微鏡検査を行います。その他にも時間は掛かりますが、採集した検体を培養する方法や、トリコモナス原虫の遺伝子を増幅させる核酸増幅法といった方法もあります。
治療法としては、10日間ほどフラジールの内服を行います。

梅毒

梅毒トレポネーマという細菌による感染症です。皮膚や粘膜に小さな傷がある場合、そこから細菌が侵入し感染します。
また注射針の使い回し(覚醒剤使用など)で感染することもあります。
妊娠すると胎内感染を引き起こして、重い障害が出る可能性もあります。一時期は日本では数がかなり減っていたのですが、2012年を境に増加傾向にあり注意が必要です。

主な症状

初期から最晩期までを1期から4期の4つの時期に分けて考えます。症状はそれぞれの期によってはっきりと異なります。

第1期

感染すると10~90日の潜伏期間を経て、まず痼り(しこり)のようなもの(初期硬結)が性器周辺や口の周辺などに発症します。その部分に関係するリンパ節が腫れることもあります。
特に痛みなども無く、気づかずに過ごしてしまいますが、やがて潰瘍となり消えていきます。しかし、これで治癒したわけではありません。

第2期

第1期の症状が出て3か月程度で全身に特有のピンク色っぽい湿疹があらわれます。これをバラ疹と言い、この色が楊梅(ヤマモモ)に似ていることから梅毒という病名がついたとの説がります。
また全身の炎症により髪の毛が抜けることもあります。ほとんどの場合、この時期になると自覚、他覚症状によって感染がはっきりして治療を受けることになりますので、近年では3~4期に進むことは稀です。しかし、この時期で放置すると再び潜伏期に入ります。

第3期

感染後2~3年過ぎると、全身に梅毒トリポネーマによる炎症が発症し、炎症と共に、筋肉や皮膚、骨や内臓などがゴムのようになってしまうゴム腫という腫瘍が発症し、どんどん大きくなっていきます。

第4期

感染後10年を経過すると、心臓血管、中枢神経などが梅毒トレポネーマに侵されて、重大な心臓疾患や痴呆、麻痺などが始まり、ついには、記憶障害、思考力の欠如などが起こり、妄想が現れたり、全身麻痺となったりして死に至ります。

検査と治療

血液検査を行いますが、正確な診断には感染機会から6~8週間以上経過している必要があります。それ以前に行ってしまうと陰性となり、再検査する必要が出てくることもあります。
また、血液検査による抗体検査の方法もありますが、こちらは一度感染した場合、治療が完了してもいても一生陽性となる検査です。治療は抗菌薬によって行います。

HIV(エイズ)

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による感染症です。このウイルスが人の免疫細胞(Tリンパ球、マクロファージなど)に感染して様々な症状を起こした時点でエイズ(AIDS)になります。 AIDSを発症すると、免疫力の低下から、様々な感染症を合併します。
HIVのキャリア(ウイルス保持者)になっていて、指定された代表的な感染症(23種類)のどれか1つにでも感染が分かった時点でAIDSと診断されることになります。

感染経路

性的な接触、血液感染、母子感染などが考えられます。母親がキャリア(ウイルス保持者)である場合、授乳でも感染することがあります。血液感染は注射器の使い回しなどによる感染も含まれています。

症状

HIVウイルスに感染すると、2週間程度の潜伏期を経て、発熱や倦怠感、筋肉痛、リンパ節の腫れや痛みなどの他、皮膚の湿疹などの症状が起こります。この症状は数週間で治まってしまいます。
またこのような症状が全く起こらない場合もあります。 症状が治まった後はしばらくの間、潜伏期に入ります。

無症状期

初期症状が治まると、体内でひっそりとウイルスは増殖していきますが、免疫機能への影響がまだ無いため、特に症状が現れることはありません。

発症期

AIDSが発症すると、免疫が不全となり、様々な感染症を起こしやすくなります。HIVのキャリア(ウイルス保持者)でAIDS発症の指標として指定されている代表的な23の感染症のうち、どれか一つでも発症した時点でAIDSという診断になります。

検査と治療

HIVの抗体スクリーニング検査によって、感染の判定を行います。まずは1回目の検査を行います。これは感染後最低1か月経たないと、正しい結果を得られません。 1か月待って、検査を受けもし陽性の結果がでれば、今度は感染後3か月を待ってより精度の高い2度目の検査を受けます。これで陽性であればHIVキャリアが確定します。
当初はその後のAIDS発症でほとんど死に至る病とされていましたが、近年、治療法などの研究が進み、完治は難しいのですが、エイズを発症しないように抑え込む治療薬などが開発されており、キャリア(ウイルス保持者)の状態でもAIDSを発症させないような治療や、もし発症してしまっても様々な感染症をコントロールしていくことも可能になっています。
AIDSを必要以上に怖がることはありませんが、それでも感染・発症しないよう最大限の治療を行い、良い状態を保つようにしていくことが大切です。

性感染症を
予防するために

性感染症を予防するためには、粘膜と粘膜の直接接触を避けることが大切です。そのために現在のところ最も効果的な方法はコンドームの着用です。性行為は現在多様化し、性器同士の直接接触だけではなく、口腔感染や肛門感染なども増加しています。そのため、子どもを作ることを目的としない性行為では、コンドームを着用することが推奨されます。
例えオーラルセックスなどであっても、これだけで感染の可能性は大幅に低下するのです。 しかし、それだけではコンドームが外れたり破れたりといった事故も付き物です。出来る限り不特定の相手や、複数の相手がいるパートナーとの性行為は避けることが賢明です。
また、いつも同一の感染リスクの低いパートナーと性行為をする場合も、行為前と後の手洗いや入浴、排尿や排便といった感染リスクになることは出来るだけ済ませておき、衛生状態の良い環境を整えるようにしましょう。
また、生理中も性行為は控える方が賢明です。 さらに屋外での性行為は性感染症以外の感染リスクも高めてしまいますので、出来るだけ控えましょう。 性感染症は現在でもごく一般的な疾患です。
しかし油断してしまうと、多くの人に感染をばらまいたり、自身の不妊や流産、早産に繋がり、さらに赤ちゃんにうつしてしまうことも考えられます。
また、もし自分だけが治療しても、パートナーが感染源だったり、感染させてしまったりしていた場合、パートナーが保菌し続ければ、それによって再度感染を繰り返すピンポン感染もあり得ます。
自分が感染したら、必ずパートナーにも検査をしてもらい、パートナーが感染したら症状が自分に無いからといって安心せず、受診するようにしてください。

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